腕を引っ張られる違和感に、相澤が重たい瞼をゆっくりと開く。うつぶせから首だけ持ち上げて振り返れば、一つにくくった金髪を肩から垂らしマイクが自分を見下ろしていた。
「起きちゃったか」
「…何してる」
「ん~~~~?…腹いせ」
マイクはそう言って口角を持ち上げてみせてから、相澤の頬骨にちゅ、と口付ける。薄い皮膚に落とされた唇は温かく、やさしい。とても恋人が寝ている間に腕を後ろ手に縛り上げた男とは思えなかった。
「イライラが収まんなくてさ。悪ぃけど付き合ってもらうぜ」
起きた以上もう手加減は不要、とばかりにマイクはまだたわんでいた拘束具をきつく締め上げる。室内は暖色灯がほのかに点るだけの薄暗さだが、その覚えがあり過ぎるざらりとした布の感触に、相澤は舌打ちする。
くだらんことに人の武器を使いやがって、と頭の中の閻魔帳に鉄拳の制裁を書き込む。しかし自由を奪われた現状、非合理な言い合いをするつもりはなかった。
「何がしたい」
「だから、腹いせだって」
「…ヤリたいなら普通にすればいいだろ。相手してやるからほどけ」
「ハア~~んな合理的に解決しようとしないでくれる?今日は時間をかけてお前をむちゃくちゃにして泣かしたいし鳴かしてやりてぇの。そういう気分」
明日も授業があるのに冗談じゃないと相澤は眼光を鋭くするが、むき出しの二の腕にぎしりと捕縛布が食い込むだけだった。頑丈な布は幾重にも絡んで上腕を後ろに引っ張り、手首まで拘束していた。白い放射線はこわばる相澤のたくましい背の中心で固い結い口のこぶしをつくる。
「っ、おい、」
ふいにするりとかたい革が首に回される。ベルトと同じ構造のその端が金具をくぐり、相澤が認識できた時には黒い首輪として色白の皮膚を締めつけていた。その乾いた感触に相澤は舌を打つ。自らが一糸まとわぬ姿に首輪、腕も縛られているのに、Tシャツにスウェットを着たマイクの姿に乱れがないことも屈辱をあおった。
「お前がそんな変態趣味だったとはな」
「普段じゃさせてくんないだろ? こんなアブノーマル」
悪戯っぽく丸みを増したエメラルドの目は愛らしいが、それに不似合いな雄臭い表情でマイクは笑った。
「んで、消太。俺がなんで怒ってるか分かった?」
「…猫のぬいぐるみに嫉妬してる。捨てろと言っても俺が聞かなかったから怒ってる」
「ンー…半分当たり」
この状況下での勿体ぶったやりとりは相澤を苛立たせた。
シーツの上で勢い付けて体を反転させると、唯一自由な足を伸ばしマイクのまたぐらをなぞる。挑発的な黒と見開いた緑の双眸がかちりとぶつかった。
「咥えてやるから早よ脱げ」
「…ワオ、セクシー……けど俺の話聞いてた? 今日はお前の誘いに乗っかる気分じゃねーのよ」
マイクは無遠慮な足を捕まえ、開脚させる形で押さえ込む。そのままおおい被さると、耳を隠す相澤の髪を指先でかき上げ、露になった耳にくちびるを寄せる。
『お前が涎垂らしてザーメンも出しつくして泣いて懇願するくらい…犯したい』
「っ…!」
低いヴィブラートが尾てい骨に響く。相澤がいやがるので普段めったに使わない、マイクの個性の中で最も特殊な声。鼓膜に流し込まれたそれは全身を這うように肌を粟立たせた。
相澤が声の余韻に耐えていると、尻の割れ目にぬとりと何か塗られた。マイクが手に持っているのはいつものローションのボトルではなく、乳白色の塗り薬のようなものが入った小さな丸い容器だった。
「っ、何…」
慣れた指は躊躇なく奇妙なゲルをまとい、相澤の秘部に入りこむ。すぼまりは戸惑うように収縮したが、ピンク色の粘膜は本人の意思に反しやわらかで、結局マイクの指を拒まなかった。容器との間を往復し浅く深くたっぷりのゲルを塗りこみ終えると、マイクは指を引き抜く。
「っ…これ、なんだ…」
「当ててみ?予想通りだと思うけど」
「バカ野郎。なんでこんな下らんもの持ってんだ」
「俺もオトコノコだからね~~~夢じゃん?エッチなお薬って。お前絶対許してくんないからこのままお蔵入りかと思ったけどこんな時に使うチャンスが来るとはな」
眉を下げた悪い顔で笑うマイクに、お前はそれでもヒーローかと突っ込みたくなる。彼は心底たのしげに長い指で容器の底に残ったゲルをきれいにすくい、斜め上を向いてゆるく勃起した色の薄い性器にも塗りつけた。
(マジか…)
相澤は下唇を噛んだ。怪しい薬のたぐいは実際謳われるほどの効能がないまがいものがほとんどだろうと思い込んでいたが、全くそうではないことを身をもって知る。
じわりと種火のようにともった熱は腹の内側で広がり、焦れったいむずがゆさになる。堪えきれずにすり合わされた内ももの上では、半勃ちだったはずのペニスが堅さを増して反り返り、腹をこすっていた。
しかし即効性の薬の脅威よりも、それにのたうつ自分をじっと見つめるマイクの目のほうが相澤を苛んだ。
こんなAVのような仕打ちをされ、絵に描いたようにそれに乱れかねない自分を15年付き合いのある男に今さら見られるのが心底恥ずかしい。抱かれるとはいえ常に男の矜持は持っていたし、マイクも負担のかかる相澤によく配慮してくれていたので今まで痛い思いはせず、ひどい醜態もさらしたことはないつもりだった。
そんな相澤の心境を知ってか、マイクは声を立てずに笑うと、ツンと整った鼻筋に口付けてから薄い唇をふさぐ。マイクがしばしば愛着を示す、余計なお喋りを好まない小作りの口。対照的によく回る自分の舌をねじこみ、口蓋を開かせてくる。
「ん、っ、……っ、」
深く口付けると、相澤の細い顎から徐々に力が抜ける。らせんを描くように舌を絡められれば、脳が溶けそうなほど気持ちがいい。息苦しい甘いキスの間にも、怪しい塗り薬が生んだ熱は理性を燻した。
「エッロい顔…。さすが評判通り、効き目ばつぐん」
「……喋ってないでさっさと済ませろ」
「オネダリにしちゃあ可愛さが足んねーな消太クン」
そう言ったマイクの唇は相澤の胸に移動し、鍛えられふくらんだ両胸筋の中心に口付けた。そこには直径2センチほどの古い傷跡がある。相澤の体にはいくつもの傷があるが、他には目もくれずマイクはその引きつれたその薄紅の線に舌を這わせた。
「…3年前さあ、お前がこの傷負って死に掛けた時のこと未だにたまに夢で見るんだよな」
予想だにしていなかった言葉に、相澤は三白眼をにわかに見開く。相澤自身も忘れられない一件だが、かといって3年も前の出来事をいまさら日常で思い出すことはなく、マイクもそうだろうと思い込んでいた。
一言で言えば、あれは油断だった。
街中で敵を征圧して一息吐いた直後、ファンを名乗る男から唐突にナイフで刺されたのだ。ずっと会いたかった、と遠慮がちに話しかけてきた男だった。悪いがそういうのは…、と相澤が一言返して背を向けようとした瞬間の衝撃。鋭い切っ先が相澤の胸に突き刺さっていた。
聞けば男は元軍人だった。心臓のわずか0.5センチ上を貫いた冷たい光は、相澤の命を奪いかけた。記憶の底から引っ張り出せば脳裏に鮮やかに蘇る、異様な興奮に満ちた、歪んだ男の笑顔。
「あのイカれた変態野郎がつけた小さな傷で、お前が死ぬとこだった」
平素はサングラスの奥で温かく相澤を見つめる碧眼は、冷ややかな怒りに覆われていた。
相澤はその件についてほとんど忘れていた。日々戦うヴィランの方がよほど手ごわく、しつこく、何より市民を危険に晒すからだ。あの男につけられた傷よりも大きな傷を負うことも稀にある。相対的に、あの事件は相澤の中で小さくなっていた。もう思い出さないほどに。だが、マイクにとってはそうではなかったらしい。
「っ、マ、」
「お前頭おかしいやつに好かれやすいから気ィつけてなってあの時も散々言ったろ、多分忘れてるんだろうけどさ。正体の分かんない奴から貰った得体の知らねぇぬいぐるみを嬉しそうに家に持ち込んでるくらいだもんなぁー」
「別にうれ、っ」
嬉しそうにしたつもりはない、と反論しかけて唐突に走った痛みに、相澤は息を詰める。マイクの整った歯が、古傷の上から肌に突き刺さっていた。皮膚が破れ、血の赤がにじんでくるのを、マイクがそろりと舐め取った。ブロンドの、鼻筋が通った相貌がみせるその様は、相澤の脳裏に血を吸う西洋の化け物をほうふつとさせた。
15年連れ添ったはずの男に得体の知れない不安を感じ、額に奇妙な汗が浮く。気づけば室内に猫のぬいぐるみはなかった。マイクが捨てたのだろう。
「っ…わかってるか? お前もたいがい頭おかしいぞ」
「そりゃね、俺だって自分が頭に血が上ってんのは分かるよ。上りすぎてカラカラ空転してる、クレイジーな状態だ。けど、この話は半端に終わらせたくねーし…それにこんなことされて萎えない消太もおかしいぜ?」
マイクの指先が、歯で開いた古傷を上からなぞった。にわかに込められた力が、赤を押し広げる。にじんでいただけの血は雫になり、筋肉で曲線を描く胸を伝い落ちた。
「ぅっ、マイ、」
マイクの舌が再び伸び、その尖った先が傷口にねじこまれる。痛いはずなのに、肉を直にねぶられると直接触られてもいないのに腹の下で熱を持った内壁がじくじくと疼いた。表皮の内側のむきだしの肉を、マイクに侵されている。その事実は、相澤の意思に反して上を向いて張り詰めたままのペニスの先をぬらした。
「……お前、優しく抱かれるよりこっちのが好みだったわけ? へー。毎日いたぶったらお前は満足して危ない奴に吸い寄せられなくなるってこと?」
違う。何を言ってやがる。吸い寄せられるってなんだ、俺が寄っていったことはないだろ――。いくつもの反論が怒りとともに相澤の脳裏に浮ぶ。が、それを無視して冷ややかな目をしたマイクの手が相澤の頭を引き寄せた。目前にマイクの下半身が迫る。
裸に拘束具を付けられた相澤と異なり、マイクに服の乱れはない。脱ぐそぶりを見せないその姿勢に、相澤は彼の要求の意図を察して眉をひそめた。しかし下半身はうっとうしく疼き、行為を終わらせる手段もほかにはない。
相澤はマイクのスウェットに顔を近づけると、腰ゴムを咥え、不器用に引き下ろす。何度も上に戻ってしまいうまくいかず、苛立ちながらも、マイクの下着を露出させた。マイクが気に入っているブランドの黒のボクサーパンツ。タイトな布地を咥えてひっぱると、鼻先にぷんと蒸れた雄の性の匂いがした。嗅覚を満たすそれに下半身が疼くのを感じながら、布地を少しずつ引き下ろし、マイクのペニスを引っ張り出す。やっと外気に晒されたそれは、相澤の痴態に半分勃ちあがっていた。
「…うまそうに舐めるね…」
マイクが猫にするように相澤の頭を撫でる。首輪を巻かれ、体を折り曲げてマイクのペニスを舐めしゃぶる自分の姿を想像したくなく、相澤は聞こえないふりをした。無心だ。今はなにも考えなくていい、この馬鹿げた戯れを早く終わらせることに集中する…理性でそう繰り返しつつ、相澤は落ち着かない股座をもじつかせた。
―じゅ、ず、ぷ、ぐちゅ
手を使えない以上、口でマイクを追い詰めるしかなく、うすい唇はめいっぱい広がって膨張した雄の塊を受け入れる。唾液で濡れた口腔の粘膜がこすれるのは相澤にとっても刺激だった。
じれったそうにすりあわされる太ももの動きを感じ取ったマイクは、ほくそ笑み、相澤の頬を隠す髪をかきあげてやる。その指の優しさに反し、伏せ目だった三白眼がちらと上を向きマイクをにらみ上げた。
「…。お前に執心するヴィランの気持ち、ちょっと分かっちまうね…」
マイクは煽られたことを隠さない上ずった声でそう呟くと、言葉の続きを捨てて相澤の後頭部に手をやる。喉奥に深くペニスのかたい弾力を突き込まれ、相澤は目を剥く。状況を悟りあごを引こうとした時にはもう遅く、口腔は猛る性をぶつけられるだけの器官に成り下がっていた。
よだれを垂らす顎に添えられたマイクの手、その親指は相澤の口に入り込んで下あごを押さえつける。閉じることを許されない喉の奥が、無遠慮に押し込まれた凶器でふさがれ、嗚咽とわずかな性感を引きずって出て行く。ぐぷぐぷという濁音とともに、鼻腔も脳も目の裏までマイクの精の匂いに支配されていた。朦朧とした相澤が声にならないうめきを上げ気をやりそうになった瞬間、喉の奥で生ぬるい熱が爆ぜた。
「はァ、…はぁ………消太、それ飲み込まないで」
本能的に喉を鳴らしかけるのを、注意を引くように汗ばんだ指に片耳を引っ張られ、相澤は寸でのところで止める。マイクは相澤の顔を上げさせ、うつろに自分を見つめてくる媚態と向き合った。
散々蹂躙されて濡れた唇は力なく薄く開いたままで、その奥では従順な口腔が雄の精を溜めたまま、不足していた酸素をやっと吸い込んでいる。ひゅう、ふう、と苦しげに鳴る喉。マイクは熱の篭った碧眼でその全てを愛おしげに視姦すると、乱れてしまった相澤の髪を再び掻き上げ、左耳にかけてやった。
「欲しい?」
静かに頷く相澤に、マイクは自身のスウェットを脱ぎ捨てる。
「乗って…口開けたまま、それは飲み込むなよ。こぼすのも駄目だ。…できる?」
やわらかな声色。その穏やかさ、温かさに似つかわしくない無体な要求の意図を、相澤の脳はよく認識できないままで横たわったマイクの上にまたがる。恋人というより今は飼い主と言う方がふさわしい男の精液を含んでいたが、その口腔は飢えに満ちた獣のように、唾液があふれてくる。
先ほどの射精を感じさせない堅い亀頭が、相澤の尻に触れる。薬で痴れたすぼまりにはそれだけで過ぎた刺激で、相澤は細い眉を狂おしげに寄せた。
はやる体はすぐに腰を落としたが、マイクの濡れた亀頭が滑り挿入に至らない。手を使えないままもどかしさに腰をもじつかせながらもう一度試すが、やはり軌道が逸れてしまった。
それどころか逃げたマイクのペニスが自分の張り詰めた肉茎の横面を擦った刺激に息をつめ、相澤は背を丸める。
一人遊びのようなその痴態をみていたマイクがふっと笑う。
「ずっと見てたいけどな~…我慢できない、ごめん」
マイクの両手が相澤の締まった腰に据えられ、ペニスの先端が濡れた入り口に当てられる。刹那。相澤が悲鳴をあげる間もなく、堅い肉の杭はぬるついた媚肉を奥までつらぬいていた。
「ぐっ、ぅ、」
一拍遅れてきた快感の衝撃に、相澤が背を大きく反らせる。
まぶたはひくつき、意識が白く霞がかった。急速に爆ぜた射精感に身をゆだねた相澤の、震えたペニスの根元をマイクの指がせき止める。血管が浮き上がり、赤らんでふくらむそれは苦しさを訴えた。
「ぁ、…い、」
マイク、と抗議したい口は精液で満たされ、舌がうまく回らない。
「言ったデショ? そんな簡単にイかせないって」
冷ややかに響いた声が鼓膜を打つ。しかしそれよりも相澤の心を絶望に浸したのは、マイクが一つにまとめていた自分の髪を解き、そのヘアゴムの輪を相澤の亀頭に通したことだった。長い指は手際よく輪を二重にして根元で留める。さすがに加減はしてくれているのできつ過ぎるほどの圧力はかかっていないが、肉茎ははち切れそうな硬度を保ったまま射精の自由だけが奪われる。あまりにも、苦しい。そして屈辱だった。
「っ、こ、ぉす…」
怒りのあまり光る赤い目。本人が気づかず発動させた個性の凶悪な美しさがマイクを煽る。
『殺す』という、マイクに対して遠慮のない彼とはいえ平素はめったに言わない呪詛の言葉も、相澤の体内で息づく雄を刺激した。
「あ、っア゛…!!!っ、かはっ、」
唐突に突き上げられ、相澤が反動で喉を反らす。途端に舌の上で溜まっていた白濁がどろりと奥に流れ込み、気道を塞ごうとする。このまま飲み込めば楽になるが、瞬時に、飲むな、と言ったマイクの言葉が脳裏に蘇り、相澤は激しくむせた。
汗で濡れた上背が踊るように跳ねる。マイクはたゆんだ口の端からこぼれた白濁を親指の腹でぬぐい、涙を溜めた目じりにやさしく触れた。個性は消え、三白眼に浮かぶ黒目がどこか呆然としてマイクを映す。
「ん、えらいね消太…口は開けたまんまで、そのままな?飲んでもこぼしても、もっとお仕置きしちゃう…」
その言葉に、相澤のナカがきゅうと収縮する。もっとお仕置き、という言葉に対し、脳が起こした素直な反応。マイクは苦笑すると『マゾ』とその耳元に吹き込み、腰を揺すった。
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