くちゅ、と湿った音がひびく度に、熱いぬめった肉がひきつったように痙攣し、マイクを締め上げる。
後ろ手に拘束された不自由な姿のまま、マイクにまたがる相澤は何度目か分からない絶頂に震えていた。慣れるどころか強くなるその衝撃に背をそらし、雄々しい膨らみのある胸を突き出す。あごを上げ白い喉を晒した首には、黒い革の首輪が食い込んでいた。
「くっ……――っは…、はぁ…」
「またイッたの? 俺をイかせる気ある? 消太」
相澤がひゅう、はあ、と規則の乱れた息を吐きながら、マイクに紅潮した顔を向ける。汗で濡れた髪は頬や首筋に張り付き、開いたままの口の奥では答えの代わりに溜まった白濁の唾液がちらと光った。こぼすな、とは言ったものの、何度も迎えた射精のない絶頂にゆるんだ唇はマイクの精を少しずつ漏らしていた。
童顔の彼の顔を厳しくみせるはずの顎ひげがしどけなく濡れ、白い粘性の小さな雫をぶらさげた様は狂おしいほどにいやらしい。
「つらい?」
マイクの問いに、相澤は無言で頷く。充血した目はピンクに濡れ、息遣いだけが獣のように荒い。
あと一回俺をイかせたら終わりでいいよ、とのマイクの提案は果たされることなく時間が経過していた。当人が意地悪にも射精を堪えているのは分かっていたが、今の相澤にはどうすることもできない。
媚薬も血流とともによく周り、わずかに腰を揺するだけでも頭の裏がしびれ、体中がさざめき意識が薄らむ。ヘアゴムで根元を留められたままのペニスからは透明な液体がとろとろと溢れたが、精を放出できずに熱は重たくわだかまって相澤をいっそう苦しめた。
マイクはふうとため息を漏らすと、腹筋だけで起き上がり、相澤の額に張り付いた前髪を流してやる。その指がそのまま後頭部からうなじに流れると、表皮を撫でられただけのわずかな刺激にもぞくぞくと痺れが走り、相澤は肩を震わせた。
「全身性感帯、ってカンジだな。とても学校の先生とは思えねぇな~…こんなぐしょぐしょのエロい体で」
「ぅ、せ…っ…」
「言い返す元気はまだあんのね。さすがだぜ」
浮き立った胸の小さな粒をマイクが爪先で弾くと、うめいた相澤が口の端からまたどろりと精をこぼす。にぶく光るその液体は胸を汚し、鍛えられ膨らみを描く筋肉を伝い落ちた。
その傍らでは、マイクが広げた古傷があかい裂け目をのぞかせている。血はもう固まりかけていた。マイクがそろりと指でなぞると、朦朧とする意識の中でも痛みを思い出したのか相澤がかすかに息を詰める。
「この傷が治れば今日のことも忘れちまうんだろうな…」
マイクが呟く。
生傷が色のないただの古傷に戻れば、相澤はまた生徒を育てヴィランから市民を守るために無心で日々を過ごすのだろう。相澤はプロだ。自分を守る重要性もよく分かっている。だが優しすぎる上に、高校時代の経験からヒーローという職を重く背負いすぎている。必要性があれば他のヒーローがためらうような場面でもためらわず命を捨ててしまいそうな危うさがあった。
「どこまでも高潔なヒーローたるお前に、人を守るために死んでほしくない、って思う俺はダメな奴だよなぁ…」
マイクは傷口をいたぶるように撫でさすり、おもむろに相澤の肩に歯を立てた。筋肉の弾力が押し返してくるのを構わず、犬歯を突き立てる。皮膚が破れ、血が滲んできたのが匂いで分かった。相澤が声を殺し、痛みを堪えている気配がした。
ナカはうごめくように締め付け、マイクの雄を煽り立てる。顎の力を弱めないまま、腰を揺らし軽くひと突きすれば、それだけで相澤がびくびくと達したのが分かった。被虐を悦ぶ体に、マイクは鼻で笑って唇についた血を舐める。
「消太くんのヘンタイ」
力の抜けた体をシーツの上に押し倒す。
ひと欠け残された意地でマイクをにらみ掛けたその目は、角度を変えて真奥を突かれた刺激に焦点を飛ばした。
マイクは相澤の精液で汚れた唇をなぞり、その口内を満たしていた残滓を飲み込むよう囁く。もう小細工がなくても彼は声を抑えられないはずだった。従順な喉がぎこちなく上下するのを見届けてから、マイクはゆっくりと腰を揺すった。
「ん、すげぇ吸いついてくる…」
下がり眉をいっそう下げ、マイクが色づいた表情で呟く。
「も、やぇ…ろ♡…ぁ、ひ、…」
「ンン…んなきもちよさそうな顔でやめてほしいの?」
マイクが意地悪にそう言って腰をとめる。ナカの刺激に意識のすべてを巻き込まれていた相澤の体に、思い出したようにじとりと汗が浮く。冷や汗だ。寸分も動かなくなったマイクに、射精できないことも忘れて体の奥の熱が燃えるように暴れ出す。悔しげに潤んだ目が開き、マイクを見つめる。
「ん?」
返されたのは、とぼけるように、欲しいならそう言えと相澤の羞恥をなぶる態度だった。にやついた唇、愉しげに細められた瞳。
「どうしたの、消太」
じくじくとうずいて訴えてくるナカに耐えかね、相澤は唇を噛む。
「…動け」
「もっと他に言い方ねぇの?」
「っ、マイク…たのむから…」
「たのむから何?」
「突いて…」
「どこを?」
「っ………ケツ……奥…」
ぎこちなくこぼれ落ちる単語。恥ずかしさと屈辱で息が乱れるのをこらえながら、相澤が目を伏せたまま懇願する。くっとマイクが笑った。
「どこ?………ココ?」
真っ赤な耳にわざと唇を寄せ、疑問符とともに最奥を打つ。待ち望んだ刺激に、相澤の肉壁がはずむようにびくびくと震え、マイクを締め付けた。
「それともこっちか?」
わすがに腰を引いたマイクが、充血してふくらんでいる前立腺をそっと穿つ。それだけで相澤の下半身にじんとしたしびれが走り、たまらず横顔をひしゃげた枕に押しつけた。
「気持ちいい?…お前は他の男に抱かれてもこうなっちまうのかな」
「ち、が♡…ぅあ、…っぁ…はっ、…♡」
相澤が気を失わないよう、過敏な体に合わせて律動を加減する。優しさでもいじわるでもあるそのやり方は、相澤をより一層追い詰め、乱れさせた。マイクの腹に触れる、根元を縛られた憐れな雄の先端から透明な粘りがこぼれる。
「またイッた。……なあ、消太、俺のクソみてぇなワガママ聞いてくれる? ひとつめ。もう他の男から物貰わないでください。オーケイ?」
マイクが乱れた黒髪を掻き分けてから掠れた声で囁くと、相澤は首を2、3度縦に振った。思考があるのかあやしいその様子に、マイクは親指の腹で、閉じられたまぶたをそっと開き、濡れた黒曜に自分の顔を映した。
「仕事以外で他の男に触られんなよ。女もダメだ」
頷きはほとんど痙攣だった。無理に開かれた三白眼からは涙が溢れ、視点が宙に飛びかけている。マイクはそこで一度腰を止め、手ひどい虐めに赤く膨らんだまま震えているペニスに手を伸ばす。髪結いのゴムが荒っぽく外されると、相澤が呻いた。
「ラストだ。俺の知らないとこで勝手に死ぬんじゃねー…人にすんのと同じくらい自分のことも全力で守って、んで、自分を大事にして。…自分が受ける痛みに無頓着にならないでくれ」
「は、はぁ、っ、…ァ、あ」
「消太」
「………やくそく、する…」
こめかみに静かに落とされる口付けに、相澤は行為の終わりとようやく与えられるであろう安息を予感した。
が、視界の端に映ったマイクの唇は不自然に笑んでいた。
「ウソつき」
黒い革の首輪に指をかけて引き、尖った喉にマイクが食らい付く。今日いままでで一番強い、肉をやぶられる燃え盛るような痛みが相澤の意識を塗りつぶした。宝石のような碧眼は潤んでいて、強い光が相澤の脳に残像を残す。腹いせ、と確かにマイクは最初にそう言った。手を触れれば指を斬り落としそうなほどの切なく激しい感情がそこにあった。
「マ、あ゛!あーーーー…っ…ゃ、…、ぁ!あ゛…っ、ぁ♡、~~~っ!」
前立腺をごり、と突かれ、意識が飛びかければ肌がぶつかりあってきしむほどに最奥を攻められる。
食まれた相澤の喉が一層反り、細いあごが上を向く。ぞわりと脳までひびく結合部の痺れが止まらず、自分がいつイっているのかもわからない。激しい快感はもはや責め苦でしかなく、相澤は逃れようと震える足でシーツを掻いてわずかに上にずり上がろうとするが、マイクはそれを許さず腰をつかんで一層深く中をえぐった。相澤はぐしゃぐしゃの髪をいっそう乱して獣のように喘ぐしかできなかった。
喉にかすかな痛みを感じ、相澤は目を開ける。見えたのは横たわる自分を覗き込み、消毒液でひたしたガーゼを手に、傷の手当をしているマイクだった。
「お…もう朝まで起きねーかと思った」
「……寝つきが最悪過ぎて起きた」
「その割りにヨさそうだったけどな…」
「マイク」
「はい」
ゴッ
と容赦の欠片もない音を立て、相澤のこぶしがマイクの左頬に入った。ある程度の報復は予想していたが、それをはるかに上回る重たい右ストレートの衝撃にマイクはベッドから転げ落ち、後ろ頭をしたたかに床に打ち付ける。
深夜にしては迷惑な、大きなにぶい音が寝室に響いた。
「いっ…てーーーーーー!!!」
「うるさい、いてぇのはこっちだ。無茶苦茶しやがって」
「だぁ~口ン中切れた……。ボイスヒーローの顔殴んのは反則だぜ…」
「顔は関係ないだろ…これでおあいこにしてやるんだから感謝しろ」
愚痴を続けるのだろうと思ったが、マイクは起き上がると、無言で背後から相澤を抱きしめた。
犬が飼い主に静かに擦り寄るように、相澤の横顔に自分の頬を近づける。
衝動的な行為への反省と、それでもほぐせない執着。無言のぬくもりから、マイクの感情が静かに流れ込んできた。
「…お前の気持ちは分かったから」
相澤がぬいぐるみを持ち帰ったこと、マイクがそれを捨て相澤を酷く犯したこと、相澤がマイクの気持ちに気付いていなかったこと。どれも、ごめん、とあえて口にして相手に伝えるのは違う気がした。
相澤が自分に無頓着なことも、マイクが神経質で心配性なことも、お互いそれを分かった上でそばに居続けている。溜まる感情の膿があふれることは、いわば自然で。なんで俺たちこんな性格が反対なのに一緒にいんだろうな?と以前マイクが笑ったことがあるが、それでも離れられないのだから仕方がなかった。
相澤は自分を抱きしめるマイクの手からガーゼと消毒液を取り上げると、雑にベッドのサイドボードに放り投げた。それからシャツの胸元をグイと引っ張り、自分の体とともにマイクの体もシーツに横倒しにする。
「寝ろ。俺は寝たい」
それだけ言うと、相澤はそこが定位置のようにマイクの胸に頭を押し付けて眠る体制をとる。当たり前のような態度だが、実際には普段はしない行為。相澤の本心を感じ取ったマイクが、うれしそうに目を細める。
「俺はもうちょっと喋りたいけどな~~~」
「知るか、勝手に喋ってろ…俺は寝る」
相澤がまぶたと薄い唇を閉じると、マイクは苦笑して黒髪に指を通す。あたたかい指は自分が乱したそれをゆっくりと梳いた。
「消太、好きだぜ」
「……」
「あのぬいぐるみをもらってくるとこも、しかもそれをスイートな寝室に置くデリカシーないとこも嫌いだけど」
「……」
「あとは全部好きだ。本当は無茶するとこもさ…ヒヤヒヤさせられるし、むかつく時もあるけど、そんなお前だから好きだしほっとけねぇんだと思う」
「……」
「だからさ、これは俺のエゴなんだけど…他のいろんなモンを守るお前を守りたいし、大事にしてえの」
その言葉に相澤はやはり答えなかったし、代わりに否定もしなかった。胸が熱い。今日喧嘩するまでは思い至らなかったマイクの気持ちが、今は強く相澤の中に流れ込んでいた。ふと相澤は、まどろみながら、彼が雄英で英語教師をやると打ち明けた時のことを思い出す。
”お前みてたら俺も教師やってみたくなった、なんかおもしろそーじゃん?”
軽い調子で告げられたその動機は本当だったのだろうか。プロヒーローと売れっ子ラジオDJで食べていくには困らないのに、生易しくはない教職まで掛け持って。
もう眠ったと思ったのだろう、マイクがそっと相澤の頭に口付け、小さく囁く。
「…そばにいさせてな」
さんざん無茶苦茶しといて今更なんで、そんな静かな声で、気弱なことを言うのか。
文句と共に返したい言葉はあったが、不器用な舌では意図しないことまで伝えてしまいそうで、相澤は黙ったまま頷いた。この男のやさしさと執着が、永劫に自分だけのものであればいいと思いながら。
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