セックスしないと出られない部屋のニスフル

mgdニスフル

※セックスしないと出られない南の島のニスフル本の前に書いたもの

 

 

ニスロクの拳骨が部屋の壁をコン、と殴る音が空しく響いた。静かにそびえる白い壁は、彼が先程奥義を打ち込んでもびくともしなかった。

「ダメだねぇ
「勝手に諦めるな。貴様も技を打ち込め。電撃なら効くかもしれん」
「ハハ、キミの奥義でダメなら無理だよ」

フルフルはそう言いながらベッドの上に腰を下ろす。この部屋唯一の家具だ。真っ白い部屋に、ベッドがひとつ。閉じ込められた二人が性行為をしない限りドアは現れない、そう説明書きされた奇妙な部屋は、ただ目的を満たすためだけに存在していた。

「ん~このベッドふかふかして気持ちいいなぁ」
「おい、私はここに長居するつもりはないぞ」
「そりゃあねぇ。大人しく従うしかないよね、部屋主に

ふあ、と大きなあくび。フルフルはベッドに寝転ぶとそのまま船をこぎ始めた。それを見るニスロクの眉がつり上がる。だが不毛な文句を言う前に頭を切り替えたのか壁際から立ち上がると、ベッドに歩み寄って恩師を見下ろした。

教えろ。私にはその手のことは全く分からん」

──教えろ、かぁ──。ふふ、とフルフルは眠たげな目で笑いを漏らす。遠い昔の記憶が甦る。まだニスロクがいつもお腹を空かせたバナルマだった頃。フルフルの作った煮込み鍋ではじめて料理というものを口にした幼い彼は、『腹が減ったので食べに来てやった』とその後もよく食事をしにきては興味深そうにフルフルの手元をじっと見ていた。琥珀色のおおきな目を煌めかせ、一つの動作も見逃すことのないよう、じっと。
フルフルが根負けして『やってみる?』と尋ねると、『手伝ってやる』と答えて嬉しそうに手が伸びてくるが、当時の彼は最後まで『教えてほしい』なんて言葉を口にすることはなかった。

「おい、聞いているのか」

回想から夢うつつに入り始めたフルフルにニスロクが苛立つ。性行為のやりかたを教えろ、というのはアジトの誰かが聞けば騒いで興奮するオーダーだろう。しかしフルフルの返答はどこまでものんびりと穏やかだった。

「生憎だけど私も経験がないなぁ」
「貴様私より長くヴァイガルドにいるのに、

憮然とした様子のニスロクの言葉尻はそこで消え入った。知っておけ、と言うべきことでも言いたいことでもない、と気づいたのだ。

「なんとかなるんじゃない?適当に煮込めば食べられるものができるみたいにさぁ」
適当に煮込めばマズいものになるだろうが」

ニスロクは言わんとするところが伝わらないことに眉間の皺を深めたが、結局これ以上の問答は無駄だと判断したようで寝そべるフルフルに重ならないようベッドに乗り上げる。骨組みが初めて重さを知ったように、ギ、と軋んだ。
ニスロクは落ち着いているように見えたが、いつにも増して硬質な無表情だった。何も語ろうとしない表情の代わりに琥珀の目が目立って煌めいている。彼の手はフルフルの腰を滑ったが、まるで食材の大きさを正確に検分する手つきだった。色めいておらず、ただフルフルの体の小ささを確かめたような。メギドラルでまだ料理とも言えない”楽しさの試作”を囲んだ頃と、二人の体格差は変わってしまった。

痛かったり異常を感じたら言え」

どこか儀礼的な口ぶりと共に、ニスロクの指がフルフルのボタンにかかる。やはり迷いのない指は海老の殻を剥き下処理するように手早く外していく。一番下まで外し終えてから、料理人にしては滑らかな手が、フルフルの鎖骨中央から右に滑り、肌を覆っていた布を避けるようにするりと肩を露出させる。今度はどこか迷いを含んだ穏やかさで。フルフルはニスロクの手つきが急に妙にやさしくなったので、ふふ、と笑った。からかうつもりはなかった。ただ胸のうちが何となくくすぐったく、温かかった。微かに空気を震わせた彼女の微笑みに触発されたのか、今まで顔色を変えなかったニスロクの頬がじわりと赤みを帯びる。

寝ていろ。すぐに済ます」
「いつも寝るなっていうのに?はは

ぎゅっとつり上がった眉にふと昔の面影を見る。起きてるよ、と答える前に唇が塞がれた。表面がぶつかっただけで少し止まってしまった口付けは、不思議と日向でまどろむような安堵を与えた。

 

 

 

 

 

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