夏飴すくい(ひざしょ既刊)サンプル

hrakマイ相

 

◆『付き合って』

 

 

 

 

「付き合って」

校舎裏、淡いブロンドを午後の風に流しながらひざしを呼び出した彼女は言った。彼女がハッキリ告げた、好き、という二文字がひざしの頭の中で大きく反響していた。
『好き』
ああ、そういう言葉があったのか、とひざしは得体の知れない衝撃を受けた。幼稚園児でも知っている言葉だ、一切ニューワードではないはずなのに。
しかし好意を自分に向けて告げられたのは久しぶりだった。ひざし自身、目立つ存在だったので中学時代もそれなりに異性から熱い視線を受けてはいたが、雄英に入るための勉強と特訓が忙しくすべて気付かぬふりで素通りしてきた。
「…好きって、なんで?」

昨日の相澤とのやりとりが頭にすり込んだのか、ひざしの口からは自然と『なんで』という言葉が出た。もちろんひざしは彼女のことを知らないわけではなかった。3年普通科の先輩で、学園で1、2を争う美人。ブロンドに青い瞳の彼女を知らない雄英生はいなかった。しかしひざしは彼女と話をしたこともなければ、姉の存在があるので美人なのでこれ良しと思う程単純でもなかった。
「体育祭見てて、山田くんの戦ってる姿がかっこいいなって」
はにかんだ彼女は長いまつげの下から上目遣いにひざしを見た。にわかに照れた、しかし自信を秘めた表情。告白を断られたことがないのだろう。標準より少しだけ短くしたスカートから白く形のいい足がすらりと伸びていた。
体育祭で戦っている姿がかっこよかった、と聞いて、ひざしの脳裏には記憶に鮮明に残る相澤が蘇った。血走らせた目から涙をこぼし、耳から血を流しながら自分に向かってくる姿。その実力に怖さを感じると同時に、唯一無二のライバルと認めて魂が震えた。体の中心が、言いようもないほど熱くなった。経験したことのない鮮烈な感覚だった。

「他に好きな子でもいるの?」
ひざしははっと我に返る。目の前では自分より少し明るい色のブロンドの彼女が、返ってこない答えに小首をかしげていた。
「いや、…」
「じゃあいいじゃない、付き合ってみましょ!女の子と付き合うの初めてじゃないでしょ?難しく考えることないよ」
彼女はそう言うと、ひざしの手を握った。さらりと心地よい湿度のある、柔らかな感触。きれいに整えられた爪。引っ張られるままのひざしはこの手を振り払うべきなのかどうなのかよく分からなかった。彼女がほしいし初体験は早く済ませたい、と思っていたからだ。ついこの間までは。
彼女はその日ひざしのクラスに迎えに来て一緒に下校した。ひざし君のおうちにいってみたい、と言われたが、部屋が汚くて人を上げられる状態じゃないよ、と考えるより先に言葉が口から滑り落ちていた。

翌日のひざしは、いつもの友人達に囲まれていた。学園トップクラスの美女が下校時クラスに迎えに来た昨日の時点で予想のついた光景だ。それほどひざしの背に当たる視線は多かった。
「ひざし、やるなお前…告白向こうからだったんだろ?」
「彼女レースでは俺が一抜けしようと思ってたのにな~。こっちでも負けるとは…勝者のコメントどうぞ」
「先輩お前みたいなうるさい奴のどこがいいっての?むしろ別れるまでの期間をベットしようぜ皆」
「イヤイヤ待てお前ら、それより昨日どこまでいった?これが一番重要だろ!!」
机の周りを囲んで立った友人たちに口々に質問を浴びせられ、ひざしは当惑した。その真後ろで自分の席に座って輪に入っていた橋本が、いっぺんに言ったってひざしもわかんないだろ、と代弁してくれる。朝からテンションの高い友人たちは、では記者会見方式で、などとうすら寒い真面目顔をして各々手を上げ始めた。ひざしは呆れたが、仕方なく順番に当てやる。
「ハイ、じゃー水野君」
「はい!昨日は初デート?どこまで行った?これは場所とソッチの進捗両方です」
「昨日はデートも何もただ駅まで一緒に帰っただけ。別に何にもしてません」
え~となぜか上がる落胆の声。友人たちはその後も次々と質問を重ね、ひざしはそれに適当に返した。賑やかに囃し立てられられながら、ひざしは隣の席の様子が気になった。相澤はもう登校していたはず。この会話を聞いているのか?どんな顔をしているのか?ひざしは隣をちらりと見たが、友人の胴に阻まれよく見えない。

「ホームルーム始めるぞ、席に着け」
担任が教室に入ってきたので友人たちは自分の席に戻っていった。開けた視界、隣を見れば相澤が席に突っ伏していた。担任の登場にも顔を上げないところを見ると、いつものように眠っているらしかった。ひざしはなぜかほっとする。と、ふと視線を感じた。後ろを振り向くと、腕に顎をのせてひざしを見上げる橋本と目が合う。
「学園のアイドルと付き合えてスゲー浮かれてんのかなと思ったけど…あんまり嬉しそうじゃないな、お前」
いつもの落ち着いたトーンで呟かれた言葉。ひざしが目を見開いたところで、日直が『起立!』と叫んだ。

その日の放課後も彼女はひざしのクラスに迎えに来た。行ってみたいカフェがあるので付き合ってほしい、と言われ、雄英から2駅向こうの可愛らしい店に二人で入った。店を出て彼女は、雨が降りそうだからうちに寄っていかない?すぐ近くなの、と艶めいた血色のいい唇で言い、ひざしの手を引いた。

「ちょっとひざし、何これェ」
「……カレーシチュー」
「はァ?」

姉が素っ頓狂な声を上げるのも尤もだと思った。カレーの具材を煮込んでいざルーを溶かそうとしたところで、必要量の半分しかルーが残っていなかったので新しい箱を開けて補填した。浮き立つ泡をボンヤリ眺めながらおたまでぐーるぐーるとかき混ぜていたが色が妙に薄い…と気づき、そこで初めて自分がシチューの箱を開け、茶色とは似ても似つかぬ白いルーを大量に溶かし込んでいたことに気付いたのだ。
「ま、どーせ具は似たようなもんだしさ。カレー5対シチュー5の両方のイイトコどり…」
「味がボケてて何食べてるんだか分からないわよ」
ひざしの弁解を一蹴し、姉は眉を寄せたままスプーンを口に運ぶ。ひざしは項垂れ、自分の分の皿を持ってその向かいに座った。皿のなかの白なのか茶色なのかはっきりしない奇妙な料理は、自分の心境のようだった。

「なんかあったの」
「ンー…彼女ができた」
ひざしの一言に姉は潜めていた眉をきゅっと持ち上げる。
「フ~ン。彼女が好きで好きでぼーっとしてたってこと?」
「ンア~…そうじゃないかな」
「はっきりしないわね~。初めてのセックスがうまくいかなかったとか?」
ひざしは吹き出しそうになった飯を寸でのところでこらえ、飲み込む。その様子だと一応童貞は捨てたのね、と彼女は一人合点してスプーンを動かした。ひざしはぐっとそばにあったコップの水をあおる。姉のデリカシーのなさはいつものことだ。
「うまくいかなかったとかじゃねーんだけどさ。なんか」
「勃たなかった?あんたEDなの?」
「じゃなくて」
言っていいものか、こんなデリケートな内容を言葉にして人に伝えるべきなのかひざしは戸惑ったが、段々と険しさを増してきた姉の目つきに負けて結局口を開いた。
「なんか違うな、って……思った」
肌が触れあっても胸が震えず、ぼんやりとした違和感がぬぐえない。ひざしはそれ以上言葉にできず、妙な色をしたカレー皿を見下ろして黙り込んだ。姉はふっと鼻で笑うと、童貞だった癖に一丁前のこと言うのね~、とわざと軽い調子で言ってから、続けた。
「『違う』ってさ、誰と比べてんのー?」
ひざしが顔を上げると、形のよい唇の口角が曲線を描く。自分と同じ碧色の大きな瞳が、見透かすような澄んだ光に少しの優しさを乗せていた。

「他に好きな子がいるんじゃない?」

 

 

 

◆降られ振られて

 

 

 

 

「あーいざわ。一緒に帰ろうぜ」

鞄を持って教室を出しな、ひざしに呼び止められた相澤は眉を寄せて目を怪訝に細める親しみゼロの表情を返した。口元は嫌気を示すように微かに歯を見せる。
「断る」
「方向一緒じゃん。話したいことあんの」
「俺はない。お前とたらたら歩く無駄な時間もない」
相澤はそう言って足早に教室を出て廊下を歩いて行く。ちょい待ち、と鞄を持ったひざしが慌てて横に並ぶと、相澤はさらに歩くスピードを速めた。いつの間にか双方競歩の状態になる。
「ちょっと待てって」
ひざしの声に返事はなく、校舎の出口まで辿り着いた二人はほとんど小走りだった。すれ違う生徒たちの不思議そうな視線がまとわりついたが、2人ともそれに構う余裕はない。
相澤はまるで剣を手にし戦場に発つ戦士のように傘立てから素早く自分のビニール傘を取ると、開いて雨の下に駆けていった。ひざしも自分の傘を差し、慌ててそれを追う。朝から降り続く梅雨の雨で校庭に溜まった水を2人の足が跳ねた。相澤は少し振り返って追ってくるひざしを目視すると、傘を閉じ、空気抵抗を減らしてスピードを上げる。雨粒は肌をボツリと打つほどの大粒だ。ひざしは相澤のなりふり構わない様子に呆れ、またそこまでして自分から逃げ切ろうとする姿勢に少しショックを受けたが、ハートを痛めている場合じゃないと自分も傘を畳んだ。
「止まれって、ずぶ濡れンなっちまうだろーが!!なんでそんな逃げるんだよ!!」
「お前が追いかけてくるからだろーが!」
「俺はただお前と話したいだけだっつーの!!」
「俺には話すことなんかないって言ってるだろ!」
水たまりをばしゃばしゃと蹴散らしながらの雨の中のがなり合い。駅に向かう傘を差した雄英生が振り向き、驚嘆の顔で二人を見送った。相澤がなぜそうまでして逃げるのかひざしには分からない。何か意地になっているようにも見えた。ひざしも意地でも捕まえてやろうと足を懸命に動かした。スピードは相澤が上でも持久力には自信があった。
駅の手前で失速したびしょ濡れの背中と距離を縮める。相澤は水しぶきを上げながらひと気のない駅の階段を駆け上ると、改札を抜けて駅のホームに飛び込んだ。ちょうど電車が発車する寸前だった。相澤はスピードをゆるめ、閉まりかかったドアを抜けて車内に飛び乗った。濡れた背を丸めてしゃがみこみ、ぜえぜえと息を吐く。ドアが閉まり、密閉された電車がゆっくりと走り出したことに安堵した。

「お客さん、駆け込み乗車はおやめください」

目を見開いて顔を上げた相澤の頬に、ぼたぼたと水滴が落ちた。普段の逆立てた髪が溶けたソフトクリームのように倒れたひざしがニィと歯を見せて笑っていた。隣のドアから飛び込んだらしい。
「ったく~~…何なんだよ、大雨の中追いかけっこって…ナンセンスにも程があるだろ」
ひざしは文句を言いながら自分の鞄を開け、スポーツタオルを引っ張り出すと相澤の顔を雑に拭った。黒地にピンクの文字でひざしの好きな米国のバンドのロゴが入ったタオルは、相澤の濡れた髪にもまわりくしゃくしゃと水気を拭っていく。
「俺はいい。自分を拭け」
「お前がいるとかいらないじゃなくて車内が濡れちまうだろ」
ハァーとひざしは溜息をついてから、相澤の腕や首筋の水気も軽く拭き取ると、へたりと崩れた自分の金髪を拭き始めた。まばらだった他の乗客はびしょ濡れで飛び込んできた男子高校生二人のただならぬ様子に大きく距離をとって見て見ぬふりをしている。

「あータオルびっちょびちょ…床も拭かねーと。相澤お前なんか拭くもん持ってる?」
「ない」
「なんもねーの?パンツも?」
「その話はやめろ」
カッと頬を赤くした相澤がひざしを半眼でにらむ。大雨の中不毛な追いかけっこをさせられたひざしのちょっとした仕返しだった。
ちょうどその時駅に着き、ドアが開いた。ひざしは電車とホームの間の溝の上で自分のタオルを絞ると、これお気に入りなのに、と文句を言いながら床を拭き始めた。その様子を見下ろしながら相澤が呆れたように溜息をつく。
「…俺追いかけてる暇あったら恋人と遊んでろよ、変な奴だな」
「彼女とは別れた」
「は?」
「今日昼休みに会って『別れよう』って言った、俺から」
ひざしはそう言って、ピンクのロゴが黒ずんでしまったタオルを手に立ち上がる。表情が暗いのはお気に入りのタオルが汚れたからではなく、付き合いたての女性を振ってしまったからだろう。
「そりゃ残念だったな」
だからと言って自分は関係ない。相澤はそう思い、アナウンスが自分の降りる駅にまもなく到着することを告げたのと同時にドアの方を向いた。雨に濡れた窓にホームの端が映り、車体が中央に向けて滑っていく。

「相澤、うち寄ってって」
思いがけず至近距離で聞こえた声。肩がびくりと跳ね、首後ろがざわついた。ひざしがいつの間にか真後ろに立ち、体育祭直後と同じく内緒話をするくらいの近さでささやいてきたのだ。相澤はとっさに身を引き、距離を取る。
「お前の家に寄る用は特にない。じゃあな」
また明日、とホームへ踏み出した足が地に着く寸前で止まる。相澤の手首を、ひざしの手が掴んでいた。
「離せ」
「やだ」
「なんなんだよ一体」
ひざしが半歩距離を詰め、逃げそびれた耳元でささやいた。
「どーーーーーしても相澤に伝えたいことがあんの」
「…やっぱり3万円必要だったか?明日持ってくる」
「じゃなくて!そんなんで雨の中お前を追いかけ回してたら頭おかしいだろ俺」
ふりほどこうとしてもひざしは手を離さず、押し問答をするうちに相澤の背後でドアが閉まってしまった。苛立ちを露わに盛大な舌打ちをしてみせるが、ひざしはこたえた様子はない。次はひざしが降りる駅だった。アナウンスが流れ、電車がホームに入っていく。
「一人で降りろ。俺は次の駅で降りて戻る」
「ンな無駄な意地張んなって」

ドアが開くと同時にひざしは先に降り、手を引くが、相澤は頑として動かない。片手でドア横の頑丈な鉄の棒を握りしめ、死んでも降りないという意思を全身で示していた。電車がまもなくの発車をつげるシグナルを鳴らす。ホームにいた駅員が二人に気付き、危ないので電車から離れてくださ~い、と叫んだ。乗るなら乗れ、降りるなら降りろ、という意味だ。相澤はひざしをジトリと見る。
「…OK」
ひざしは駅員に向かってそう返事をした。諦めます、とでも言うように。相澤が安堵した瞬間、視界で大きな碧色が光った。それは閉じられ、金色のまつげが至近距離で揺れた。唇に、柔らかい感触。

「…相澤のことが好きなんだ。俺と付き合って」

脱力した相澤の足は、いつの間にかふらりとホームに落ちていた。

3度目のひざし宅の訪問に、相澤は幾分か慣れた様子で靴を脱いで上がった。午後6時、まだ無人のリビングを通り抜け、ひざしは自室へ相澤を通す。
「あ、体冷たいだろ。シャワー浴びたら?着替え貸すし」
「いい。さっさと用件を済ませろ」
そう言って相澤はもはや定位置となったガラステーブルの前にあぐらをかく。ひざしは溜息をつくと洗面所からバスタオルを持ち出し相澤に渡した。自分もタオルを被り、わしゃわしゃと水気を取り除きながらその隣に座る。
「用件はさっき言った通りだよ」
ひざしはそう言いながら、タオルを頭にかぶったまま怪訝な目で見つめてくる相澤の頭を本人に代わって拭いてやる。ぱさぱさと揺れるタオルの下、相澤がうっとうしそうに頭を振ったが大した抵抗ではない。
「返事はいつでもいいけど…いや、ごめん。早い方がいいや。…できればイエスで」
ひざしが相澤の髪からタオルを取り払うと、もの言いたげだが言葉を見つけあぐねている三白眼が現れる。

「お前結構くせある…濡れるとくるくるすんのな」
目にかかった、水気を含んでうねった黒髪が照明の光を静かに受け止めていた。何気なく指で触れれば、至近距離で目が合う。ひざしの動向をじっと観察するまっすぐな眼差し。触れられても拒絶の意思を示さない瞳がひざしの胸を鼓舞し、無防備に薄く開かれた唇が誘っていた。時間と呼吸が止まる気配。
ひやりとした温度と、柔らかさ。
「あ、」
ひざしははっとする。するつもりがなかったのに、またキスをしてしまった。相澤はといえば、目を見開いたままで黙っている。
「ごめん、つい…」
「つい、じゃねーよ…」
「今のノーカウントで…あとさっきの、駅でのも。こういうの全部付き合ってからなのにな…順序間違えた」
「はあ?」
相澤は意味がわからんと言いたげに憮然とした顔をしたが、先ほどと同じように、気持ち悪い、とは感じていないように見えた。ひざしの心臓が、階段を上るように音を大きくしていく。

「嫌じゃねーの?」
ひざしは青白い頬に指を滑らせ、再び自分より温度の低い薄い唇の誘因力にとらわれる。唇にふれる寸前、止まる互いの呼吸。ひざしは結局唇を外し、顎にキスを落とした。
「なあ…」
顎後ろのなめらかな肌、喉の隆起に唇を滑らせていく。痕跡を残すように、ちゅ、ちゅ、と音を立てて。期待に胸が高ぶると同時に、下半身に熱が凝縮し抑えきれないほど燃え上がるのを感じた。勝手に上がる息が、は、と獣のように口から漏れ、触れた肌を撫でた。
「調子乗んな」
下から真っすぐ繰り出された掌底にひざしの顎が飛んだ。
「好きってなんだよ…」
「…わかんないけど他に言葉が見つかんない」
回答はひざしのありのままの本心でしかない。気付いたら相澤消太という、かわいげもない青年が好きだった。その表情、挙動一つ一つに目を奪われる。彼が自分に返す淡々とした愛想のない返答ひとつとっても愛しく思える。触りたくて仕方ない。
ひざしはどう説明したものかと頭をひねる。

「なんだろーな?いいなって思うとこ、上げてみたらいいのかな?すげー強いとこ。ぜってー妥協しない、一番取ることを目標にしてる負けん気強いとこ、たまに引くけどやっぱ痺れるわ。戦う時の体の動き、特に跳躍から攻撃するときが綺麗。授業中前見てるときの目、いつもすげー真剣だよな…この間の真っ赤に充血した目がウサギみてーでおかしかった。ふふ。耳と口が意外と小さいのが可愛いなって思う。あとは…喉が白い。肌がさ、青白くて心配になんだけどそれもなんか気になって、好き…あと精通してないのも、かわいいなって、ごめんブア」
頬を刻んだジャブにひざしが告白を中断する。相澤はもうわかったから黙れ、と苛立たしげに言った。口調は愛想がないが、その心臓がドクドクと激しく鳴っているのがひざしの耳には届いていた。逆にそれがメトロノームのようにひざしを少しだけ落ち着かせた。
「相澤…。…好き。俺と付き合って…」
遠慮がちに体をそっと抱き込み、耳元でささやく。溢れる感情で語尾が掠れた告白が、二人の濡れた制服の隙間に落ちた。沈黙の中で、互いの体温だけがじわりと伝わり合う。ひざしは相澤が静かに息を吸い込んで唇を開く気配を感じ、胸をときめかせた。

「断る」

 

 

 

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