緊縛灯夜(マイ相短編2本)

hrakマイ相

 

 

◆白の抱擁

 

 

 

けんこうしんだん、と消太がうわごとのように言った。下腹部に押し込まれた熱に息を乱し、潤んだ目を腕で隠すのに必死かと思いきや、自分に覆い被さる男の不穏な気配を感じ取っていたらしい。マイクは苦笑いし、仕方なく捕食せんと開いた顎を、ひとたび閉じる。しかしその舌は口の中で消太の血を求めて疼き、尖った犬歯は押し返す筋肉の弾力を求めていた。情交の習慣とした噛み癖はおとなしく収まらない。 獣みたいな顔しやがって、と消太が吐き捨てれば、かじりたくなる顔してるお前も悪い、と返ってくる。

「ほんの甘噛みだろ」

マイクの言葉に消太は自分の鎖骨の周りに散らばる半月の傷を指し示す。

「これが甘噛みか?」
「歯並びいいな~俺。さすが芸能人…」
「オイ…話逸らすんじゃねぇ。『甘噛み』でこうなんのか?って聞いてる」
「俺は甘い気持ちで噛んでるぜ。消太可愛いなって思いながら」

ゆるんだ口調でゆるんだ会話。呆れる消太を前に、こんなやりとりですら、マイクは楽しそうだった。唇を湿らせる食前酒のように。以前からあったマイクの噛み癖。本当に甘噛み程度だったそれが最近ひどくなり、消太の体のどこかに常に噛み跡がある状態になった。消太は理由をなんとなく察しているが、いつまでも噛まれ続けるのも癪で、今日はしつこく肌に寄せてくる口を手のひらで押し返した。マイクは苦笑し、あやすように頬を摺り寄せて髪を撫でてくる。

「消太…ちゃんと加減するから…sweetie…dear……」

やさしい声を響かせて消太の熱に膿んだ前立腺のふくらみを自身の先端でこすり、突き上げる。快楽でほだす意図が明白なやり方で。マイクの体に割り開かれた相澤のももがぴくと揺れる。

「ふ、……く、っ、やめ、ろ…も、きのうまでの噛み跡だって来週までに消えるかわかんねぇのに…」

国が誇るヒーロー養成学校である雄英の健康診断は教師に対しても入念に行われ、消太は年2回のその時期になると人知れず肝を冷やしている。噛み跡だけではない、ただでさえ直腸検査で何かよからぬことがばれるのではないかという懸念もあるのに。

「消太だって物足りないんじゃねーの…?お遊戯みたいなセックスじゃイけないくせに」
「俺はお前と違ってノーマルなんだ、一緒にすんなサド野郎」

「煽んの…」

マイクの舌がぺたりと鎖骨に触れ、歯の先が押し当てられる。その湿った呼吸が肌を撫で、痛みの予感を引きずり起こした。消太が身構えると同時に、自然と下腹部がひくつく。

「ん、締まった…なんで?消太」

マイクの目が聡く細められる。身構えた消太をからかうように結局その口は閉じられ、濡れた舌の感触だけが肌の上に残された。

「なあ、なんで?」

マイクの意地の悪い問いかけに消太が答えずにいると、埋め込まれた雄でぐずぐずと奥を突かれる。ゆっくりと、いたぶるように。くやしげに眉を寄せ、消太は声をこらえる代わりに白いのどをひくつかせた。

「後ろ向いて消太…ひざ立てなくていいから」

いったん抜かれたものに息をつき、消太がうつぶせになるとマイクが双丘の引き締まった膨らみを指で開く。

「消太の体すげー堅く締まってんのにココだけこんなにやらかいのヤラシいよなホント…」

マイクの長い中指が、その粘膜の感触を楽しむように窄まりの中に埋まる。指の腹で内部をなで回す戯れの焦れったさに、消太は固く閉じた歯の間から熱い息を漏らした。

「…早よしろよ、萎える」
「嘘つけ」

マイクは笑うと、指を引き抜く。代わりに何倍もの質量が再び押し入ってくる。ローションと先走りで濡れた丸みのある先端の肉感。関係が長すぎるのだ。消太の柔肉はもはやマイクの形を完全に覚え、挿入のたびにひたりと吸い付いてしまう。
硬く張り詰めた先端に割開かれる感触が過ぎれば、マイクが消太の体の上に覆い被さった。細身だがしなやかでほどよく筋肉をまとった胸と腹が背に密着し、消太の顔の横にはさらりと金の髪が落ちる。
すぐに汗ばむ予感がする、一言で言えば暑苦しい交わり方。それをいやだとか、嫌いとか思ったことがない自分が消太は不可解だった。マイクも満足そうに色めいたため息を漏らすと、腰だけを小さく律動させる。

「健康診断なぁ…んじゃ、『ヴィランに噛まれた』とか言う?」
「っ、…去年、そう言ったんだろ、ぁ、お前が喉の下に、っぁ、跡、ひとつ残したか、ら」

そうだっけか、と答えたマイクの生温かい吐息が耳の真後ろにかかり、消太はひくりと肌を震わせる。繋がったまま全身を重ねた体位は重たい上に心臓に悪い。

「っ、なん、で毎年俺は、ひゃ、やめ、ン………け、健康診断の前に、噛みつくヴィランと、ぁ、ぁ、…、戦ってんだ…」
「ん、ヒーロー様って大変なんだなって感じだけどな。それにたぶん去年とは違う人だろ、診断のセンセイも…さ…、…あーやべ気持ちいい…」
「ぁ、ぁ、ン、わかんねぇだろ…、軽く…ひ…っぅ、~~、言う、な…」

耳裏で響く声と吐息が消太をなぶる。腹の下ではシーツのさらさらした表面に膨れあがって過敏なペニスがこすれて、いっそ苦しい。マイクはふうと熱い息を漏らすとたまらなそうに黒い髪を払い、青白いうなじを露わにする。食事の前の下準備のように、舌が表面をなめる。消太の肌がそわりと粟立った。

確かにうなじであれば健康診断でも見つからないだろう、消太はそう思ってから、なぜかマイクの行動を肯定しはじめている気づく。

「ぅ、っン…や、めろ…」
「ハァ~わかったよ…。別にお前に恥かかせたいわけじゃないしな。健康診断終わるまで我慢する…」

意外にもあっさりと引き下がると、マイクは肌の表面に口づけた。次第に早まる動きに、消太の張り詰めた双球が小さく揺れる。

律動は腹の奥を満たし、熱をたぎらせるのに、消太の手はもどかしげにシーツを掻いた。胸をじわじわと侵食する物足りなさ。先ほどマイクに突きつけた言葉に反した欲求。認めたくないと繊維を握る指が滑る。足りないのだ、執着が。
はじめは痛みに耐えた。繋がっているのにこれ以上何を求めるのか、とマイクの行動を奇異に思っていたが、いつからか噛まれることに安堵してしまう自分がいた。なれた行為は徐々に快感にまで達し、どこかよく分からない場所へきてしまった。戻れない場所に。
乾いた口は勝手に開く。

「……ひざし………ほ、しい…」

マイクがほくそ笑む、気配がした。待たされた仕返しのようにことさらゆっくりとうなじに唇を近付け、音もなく歯を当てる。ひく、とそれだけで消太の内部が震えた。勢いよくぶつりと噛み切るような痛みがほしいのに、マイクはわざとじわじわと顎に力を入れていく。消太の息が、じれったそうに荒くなる。シーツをつかむ指がかりかりと白地を搔く。

「弱ェ、よ………」

声を立てず鼻で笑った背後の獣が、顎に力をこめる。確実に皮膚をやぶり、肉に犬歯が埋まる強さで。痛みと奇妙な充足。甘美さに消太の視界がくらむ。かすかに血の匂いが香る。ひざしはそれに誘われるように唾液が浸る噛み口から滲んだ、何よりも濃い消太の味を舐めとる。それから丁寧に歯形にあわせてもう一度白い凶器を落とされ、消太は息を詰める。じわりと汗がにじんでくる気配。 シーツが破れそうなほどに握りしめ、引っ張る拳。

「ぁ、……ぁ、……っ、ィ……!」

「かわいい消太………好き…」

マイクが腰を打ち付ければ、消太は声を震わせ鳴きながら達した。激しい呼吸の波が、やがて静かな寝室に溶け込む。無防備に薄く開いたままの唇をふさがれ、消太は眉をひそめた。

「クソ…血なまぐせ…」
「そーか?オレは好きだけど。いちばん濃い消太の味がするからさ。あー消太が生きてんなあ…ってほっとする」

 

 

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