モテる男(ひざしょ・マイ相短編2本)

hrakマイ相

21年ワンドロSS②

 

モテる男

 

 

白雲朧はモテる。

しばしば女子が眉を顰めるようなバカをやり「下品」「バカみたい」と辛辣なことを言われても、不思議とバレンタインデーには本命も義理も両腕に抱えきれないほどもらっている、そんな男だ。

 

「モテる男は忙しいね…」

弁当をいつもの倍の早さで食べ終え屋上を出る白雲の背中を見送り、ひざしが呟く。今日はホワイトデーだ。昼食のカロリーメイトを早々に完食した相澤もひざし同様、特に向かう先はない。
「お前も結構もらったって喜んでたじゃねぇか」
「義理をな…。あ、これ本命かも?!って思った子、さっきお返し渡しにいったら『義理だからいらない』って。ショックー…」
ひざしは大きな溜息を吐いて肩を落とす。彼は手元にあった水色と白のストライプ柄の紙袋を開けると、食う?と相澤に向かってその口を差し出す。中を覗くと丸いチョコチップクッキーが甘い匂いを放っていた。
「お前が作ったのか?」
「そ。今年は器用さをアピールしちまおうかとね。美味いだろ?」
摘んだ一枚をかじると、香ばしく歯触りがいい。市販品とも遜色なく、相澤は素直に「美味いな」と認めた。ひざしの表情が華やぐ。
「優しいね相澤クンー!」
「何がだ。ただクッキーが美味いとしか言ってないだろ」
「お返し断られてブロークンハートだから優しさに飢えてるんだって!ありがとな」

ひざしは一方的にそう言うと、二人の間に紙袋を置いて寝転がった。うるさくしていたのにぴたりと止まる。白雲はいつもテンションがあまり変わらないが、ひざしはアップダウンが激しい。騒いでいたかと思えば、黙り込んで人知れず何かを考え込んでいたりする。意外と繊細で、落ち込みやすい面があるのも知っている。本人は自分のそんな性質が嫌らしく、内面を隠す派手なサングラスはいつでも賑やかな明るい男でいたいという気持ちの表れらしい。
「はあ、モテてェー……」
空に向けた呟き。
「お前だったら真面目に告白すれば誰か付き合うだろ」
「誰でもいいみたいに言うなよ。それに誰かと付き合いたいってわけじゃないし…相澤に言っても分かんないだろうけど」
「分からねぇな」
だろうな、とひざしは少し歯を覗かせて笑う。
「キャーキャー言われたいの。『山田くん格好いい』、ってさ。黄色い歓声でもいいし、放課後女子達の間でこっそり話されてるのでもいいけど」
「『キャーキャー』」
覇気の無い相澤の『黄色い歓声』に、ひざしは気力が一気に抜け落ちた顔をした。相澤は意地の悪い笑みを浮かべる。春先の生ぬるさを含んだ風が二人の間をふわりと通り抜けた。

「…ハァ……晴れてんな…」

呟いたひざしは、もうホワイトデーへの未練を断ち切ることにしたらしい。空は青く澄んでいた。相澤は寝そべるひざしの顔を横目で見ると、日の光を照り返すサングラスに手を伸ばしそっと外した。明るい春の日差しの下、碧色の瞳が姿を現す。元々大きな目がさらに大きさを増し、相澤を見た。
「何?」
「…。いや」
なんでもない、と相澤は答えた。サングラス外せば多分モテるぞ、と思いはしたが、何となく言うのはやめておいた。

 

 

 

 

 

 

 

アフリカゾウのいる温泉

 

 

「旅行、行けなかったな…」

休日の朝、こたつに入ってテレビを見ていた相澤が呟いた。山田が大画面を見ると、温泉に入る極楽顔の芸能人。

今年は年末年始にヴィランの出没が多く、各地に応援に出ているうちに二人が付き合ってから恒例の温泉旅行が潰れてしまったのだ。一ヶ月経ってようやくこぼれ落ちた相澤の本心。沈んだ声色はテレビの賑やかな喧騒ですぐに消えてしまう。
立っていた山田は一旦敷居を跨いで居間の外に出ると、もう一度入ってきて深々とお辞儀をする。何事かと目を丸くしている相澤ににっこりと笑った。
「遠くからよくお越しくださいましたァーー!!お部屋担当の山田ですゥー!」
「…声がでかいな、中居さん」
相澤のツッコミを無視し、山田がこたつの上に「こちらお茶菓子です。地元の食材を沢山使って作っております」とサルミアッキを置く。相澤の買い置きの、百%フィンランド産。相澤は山田の笑顔を胡乱げな目で眺めてから、包みを開き口に入れた。
「ここまでは迷わずお越しになれましたか?」
「…ええ、寒かったですがね」
「良かったです、駅から遠いもので〜…ゾウに追われて道に迷うお客さんが多いんですよ」
「どこなんだここは…」
「お食事は七時です。源泉かけ流しの温泉で、冷えた体をゆっくり温めて来てくださいね」
「……」
山田は再びにっこりと笑うとお辞儀をし、しずしずと居間を出ていく。そしてすぐに素に戻った顔でもう一度入ってくる。忙しい男である。
「なぁなぁ、お湯溜めるから久しぶりに一緒に入ろうぜダーリン」
山田の誘いに相澤は微笑みにゆるんだ表情で目を幾度か瞬かせる。だが、ふとうなじを脅かした朝の冷気にこたつへの潜り込みを深くし、…ここにいる、と答えた。
「お前も入れ。こたつはゾウがいないから安全だぞ」
「ったくもー!ものぐさな野郎だな!」
「ゾウに踏まれると痛いからな…」
相澤は眠たさと甘えの混じったとろんとした目をする。それから天板にゆっくりと頬を押し付け動かなくなる冬の猫仕草。山田は、もーこりゃ今日も出掛けらんねぇな…、と呟き、冷凍庫から餅に包まれた2つ入りのアイスを手にすると、こたつに飛び込んだ。

 

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