verde(マイ相既刊)サンプル

hrakマイ相

 

「NEGRO MANIA」霧雨JACKさん にお表紙を頂戴しました!

hrks先生からスムーズにいけばあと一年という発表がありなんだかジーンとなり…一番最初に思い出したのがこちらの本でした。2017年5月の第一回相澤消太受けオンリーに発行した「嫉妬狂いと色情狂い」の続編&「たいへん軽率なバンドパロ」の続編まとめ本。ざわ受けオンリーに参加してみたいけど私みたいなのが本を?しかも小説で個人誌ってかなり立派に書いている方しかやらんやつでは…(初心者)と思っていたのですが優しいフォロワーさんたちが背中を押してくださいました。。憧れのJACKさんにご相談したところなんとお優しさから表紙を描きおろし頂き、めちゃくちゃ格好いい本になってしまった…!

中身は不慣れな拙さもあるものの熱量はある思い出深い本で、事前にマイクとざわの所属するバンド名を募集したりして…😊 応募してくださった方含め、背中を押してくださったフォロワーさん、お表紙をくださったJACKさんに大感謝です。あの時お世話になった亀です。。おかげさまでその後ほんもいろいろ出すようになりました…

 

==以下はバンドパロ続編サンプルです==

 

 

よるは長く瞬く

 

 

 

ライブの後にホテルのベッドまで我慢できたのは上出来と言えた。たとえシャワーをすっ飛ばしていたとしても。

「消太…、…もっと声聞かせて……」

耳元で熱く催促する怨念めいたささやき。ひざしの手が、消太の両手に指をからめて強く握る。ライブの爆音はいまだに耳の奥に止まない耳鳴りを残している。ひざしはその雑音を払いたげに首を振ると、いま一度消太の声をせがんだ。自分だけに聴かせる声を。

「は、…ァ、っあ、…ぁ・あ……ひざし、ひざっ、し、……」

うねるひざしの背の筋、引き締まった腰を通って熱の奔流が結合部にぶつかる。そのビート。無意識に心地よいリズムを探してしまうのは職業病かもしれない。消太はひざしの穿つリズムが好きで、その証拠に腰はたまらなくしびれて蕩けそうだった。

ひざしの長い舌先が汗で湿った消太の喉の隆起に伸び、しとりと撫でる。狂おしげに、愛おしげに。
静かに当てられたのは歯だ。舌の根まで這わせて喉笛を食らわんと凶器を遊ばせる。ライブツアー中のボーカルの喉を自らの独占欲で傷つけるなどあってはならない。その甘美さが、碧の目を恍惚に細めさせる。消太のナカがひく…と収縮するが、恐れ、期待した痛みは実際に与えられない。今日は、まだ。
代わりに喉の隆起を名残惜しげに舌でなぞり、セクシーだとファンに評される間広い唇は鎖骨に移動する。骨に押し上げられた薄い皮膚に、今度こそ白い凶器が落ちる。

「ぅ、ア゛ッッ…!」

消太が痛みに身をよじらせると、一層硬さを増した剛直が再び中をはげしく穿った。溢れたローションが耳をふさぎたくなるような厭らしい、粘性の音を立てる。ひざしの噛み跡から血がじわりと熱く染み出し、肌を滑った。

「ッ……しょうた…イく…から、足外して?」

受け入れるために開いた消太の両足が、ひざしの腰から尻に絡んでいた。結合を解くことを許さないように。

「ン、っ、ナマでしといて今更引くんじゃねーよ…、」

ひざしは唇の片端をクッと持ち上げる。体調へのなけなしの気遣いを突っぱねる消太があまりにもらしくて可笑しい、という顔だった。愉快そうに唇を舐めたひざしは、消太の耳に掠れた声を吹き込む。

「…うちの大事なボーカルを孕ませたらよくねぇなと思ったんだけど?」
「孕むかバカ…」

やってみろよ…、そうつぶやいた唇はひざしの唇を食み、柔らかな肉をゆっくりと歯で引いて離れ、挑発的な余韻を残した。

「Bitch…。腹の奥まで注いでやるよ」

消太の腹筋を滑り落ちた長い指が、強い力で腰を捕まえる。興奮にゆらめく金の睫毛に、消太は見惚れていることを隠せなかった。

 

 

「相変わらずお盛んねえ」

爪がきれいに整えられた美しい指を消太の顎にかけて、眠たげな顔を覗き込んだミッドナイトはそう言った。

「相澤くんのお肌がつやつや。ツアー初日に元気ねーあんた達…」

付き合いの長さもあり、目ざとい彼女にはいつも夜の性事情がバレてしまう。いまだ眠りの世界に船を漕ぐ消太はほとんど聞いておらず、ひざしも今更照れるほどウブでもない。何ならひざしは、やっぱり良質なタンパク質って肌にいいんスね、と返そうと思ったがやめた。朝食時だ。

「ネムリちゃん、オムレツ食う?ふわとろで結構うまいぜここの」

そう言って自分の目の前で手付かずの、濃い黄色がぷるりと張ったオムレツが乗った皿を示す。普段の「ミッドナイトさん」呼びではなく本名で可愛らしく呼ぶのは何となく彼女の機嫌を察してのことだ。

「それよりこれ読んだ?今日発売のTRASH」

窓から差し込む朝日を反射するガラステーブルの上にミッドナイトが置いたのは、場に似つかわしくない大衆ゴシップ誌だ。水着を着たアイドルが豊満な胸とともにこちらに健康的な笑顔を向けている。その横に、『あの人気バンド、ヒミツの”同棲”愛♂♂』と書いてある。ひざしは浮かべていた笑顔を潜めた。

「読んじゃいねーけど…」
「取材は受けたって顔ね。いつあったの、直撃インタビューは」
「先週の火曜?かな。っつっても鬱陶しいからほぼ無視したぜ」
「ほらほら、相澤くんも起きて」

ミッドナイトの開いたページは見開きで、自宅のマンション前でひざしと消太が並んで立っている白黒写真が掲載されていた。ひざしの手が消太の髪に触れており、ちょうど寝癖を直してやっているところを撮られたらしい。他にも駐車場に歩いていく2人の後姿、近距離で何か話している様子が写っていた。記事が指摘している通り、ただの友人の距離感ではない。

「…。TRASHに見開きで載るなんてオレらも売れたもんだな」
「そうだな」

ひざしの感嘆に消太がこくりと頷く。しかしそれに騙されるミッドナイトではない。

「そこじゃないでしょォ!こんな写真撮られちゃっても~…バンド内恋愛禁止にするわよ?」
「すまねぇ、深夜だったし油断してた…」

ひざしは眉を寄せてむずかしい顔を作りながら、このあと車でひと気のない海辺に行ってカーセックスをしたところまで撮られていなくてよかった、と思った。
一方で消太は最後の『失恋したばかりのミッドナイトも嫉妬するお熱さだ』という一文がなければもう少し彼女の怒りも小さかったのではないか、と冷静に分析していた。
そして消太は重たい口を開く。

「ほとぼりが冷めるのを待つしかねぇな…メディアもすぐ飽きるでしょうからほっときゃいい。大したニュースでもない」

確証を捕まれなければ噂は噂で終わる。言外に言って消太はコーヒーに手を伸ばした。芳ばしい香りは低血圧の脳には利かず、消太の重たいまぶたはふたたびくっつく。
ひざしは睡魔に負けてゆるゆると角度を落としていく顔を見て口元をゆるめると、眠りを妨げないように消太の目の下にそっと触れる。やさしい指は乾いて固まった目やにをとって離れた。

「ほんとラブラブって感じねェーーーーーー」
「ンー…ラブラブっつーかこれが普通だからよく分かんねェけど」
「ご馳走様ァ。片や私は嫉妬しそうだとか書かれるしィ…婚期逃しそうってホント余計なお世話じゃない?書いたやつぶん殴りたいわ」
「だろうネー…」
「ちょっと言葉少なになんないでよ。アンタらしくないわね」

今は何を言っても彼女の機嫌を刺激するだろうと察したひざしは相槌を打つにとどめているのだが、それも彼女には不満らしい。

「ハァ~ねぇマイク、たまには相澤くんを1時間くらい貸してくれないかしら。たとえば今夜…とか」
「ハハ、No kidding…消太は貸し借りするもんじゃねーから」
「体に跡は残さないわ…硬いハードな縄で縛りたいけどやわらかい布にする…鞭で叩きたいけどスパンキングにする…使うディルドだって指定していいわよ、アンタのサイズは超えないようにするわ…」

話しながら自ら想像した光景に酔っているのだろう、恍惚としたあやしい表情を浮かべるミッドナイトにひざしは顔を引きつらせる。

「朝食時だぜレディ…」

ひざしはあえて行儀よくナイフとフォークでオムレツを切って口に運んで見せるが、もはや楽しく味わえる状況ではない。

「あらじゃあ夜ならいい?お楽しみのところにお道具もってお邪魔しようかしら」
「消太はオレで十分満足してるから大丈夫、ノーサンキュー。消太~おきろ、そろそろ準備しねぇと間に合わないぜ」

ひざしは指先で消太の頭を軽くノックして起こすと、また後で、と言い残し去っていった。2人の背中を見送るミッドナイトの表情は不満を露にふくれる。

「つまんないわ」

そう呟いたミッドナイトの後ろからポロンと耳なじみのいいギターの音が聞こえる。振り向くと、後ろのテーブルに座ったスナイプがコーヒーカップを前にギターを爪弾いていた。

「朝食時までギターと一緒?好きねぇあんたも」
「コーヒーをお供に朝の澄んだ感覚で弾くギターはいい。…正確に調律もできるしな」
「ふぅん」

同じ音楽家でもある。分からなくはないけど、といった様子でミッドナイトが相槌を打つ
と、ウェイターがやってくる。整髪量で黒髪を艶やかに整えた彼は上品に会釈をすると、スナイプのコーヒーカップに轢きたてのコーヒーを注いだ。

「彼女にも」

スナイプが軽く顎で示すと、ウェイターはミッドナイトに向き直り、白地に花の細工が施された薄手のコーヒーカップをテーブルに置く。軽やかな手さばきで上下する銀色のポットから注がれた濃い褐色は、ギターの音がゆったりと響くカフェに豆の香りを撒いた。

 

「TRASHってこんなすげーのかよ…」

取材を受けるために地元のTV局へ向かう車中。朝から自分のインスタグラムに付いた無数のコメントにひざしが呟く。 いずれもなんらかの形で記事を読んだと思われる人からで、『がんばってください』という応援や、『驚いた』『見方が変わった』といった感想、明らかに愉快犯と思われる冷やかしや罵倒、そのほか『性的マイノリティーについては…』『芸能人のパブリシティ権の問題を…』など読むのが正直メンドイ小難しい見解をつらつらと並べたものもあった。賛否の割合は分からないが、少なくとも多くの人があのゴシップをある程度信じているということは感じられた。
ひざしにとってTRASHはコンビニでたまに見かける娯楽紙の一つ、という程度の認識に過ぎなかったため、発売当日にこれほどの反応が自分に直接寄せられたことに正直驚いていた。

「まあ最近はネットで情報拡散が早いからねー」
「TRASHはネット版にも記事の大筋を載せていて、それが芸能ニュースを集めたサイトのランキング上位になってるみたいだね」

8人乗りのバンでほぼ指定席と化している後列の左端に座るミッドナイトの言葉に、運転するオールマイトが続ける。プロデューサーである彼は口にはしないが雑誌が出た後に念のため情報を一通りチェックしたのだろう。

「売れ出したバンドで初の目立ったゴシップだ。メディアにも読者にも新鮮さに食いつく層は一定いるだろう」

スナイプは静かな口調で言うと、話題にさして興味がなさそうにつば付き帽子を被りなおし、窓の外を見た。

「考エヨウニヨッテハ我ラノ存在ヲヨリ知ッテモラウコトニ繋ガルノデハ?」
「冗談じゃない。バンド全体が妙な誤解を受ける。俺の携帯に朝から2丁目の関係者がひっきりなしにメッセージを寄越して来てるんだぞ」

前列に座るベースのエクトプラズムの暢気な言葉に対し、その隣のドラムのブラドが苦々しげに吐き捨てて顔を覆った。その後ろからミッドナイトとスナイプに挟まれたDJ兼サンプラーの13号が気遣わしげに尋ねる。

「なぜブラド先輩の携帯が知られているんですか?」
「以前新宿で酔いつぶれた時に通りすがりのゲイに介抱してもらって…ゲイバーに連れて行かれて、その時に…ううっ」

何か個人的なトラウマがあるのか、ブラドは青ざめてそこで言葉を切った。

「自業自得じゃねーか」

隣のひざしが突っ込むと、ブラドはぐっと上向きの眉の角度をさらに鋭く寄せ、睨む。

「何だと?大体お前たちがあんな浮ついた写真撮られなければ済んだことだろうが」
「ハア?オレと消太だって好きで撮られたわけじゃねーよ。ぶっ飛ばすぞゴリラ」
「俺がゴリラならお前はひ弱なチンパンジーってところだな。はっきり言わせてもらうが俺は純粋に音楽をやるためにここにいる。こういう訳の分からん雑音は迷惑なんだ」
「ハァァン?Watch your fuckin’ mouth…。やるか?降りろゴリラ」

皆が、そろそろやめろ、と声をかけようとしたところで、助手席で黙っていた消太が目の前のプレイヤーに一枚のCDを入れ、ボリュームのツマミをめいっぱい回した。一拍のち、ドン!!と車内が揺れる爆音。雷撃のような重低音のギターとドラムが炸裂した。

消太の動きをみてとっさに耳をおさえたオールマイトを除き、皆それぞれ座席で音の衝撃にのされていた。消太は音量を絞ると、静かになった車内に振り向く。

「皆には迷惑をかけて済まなかった。それとひざし、ブラド。エネルギーはここで使わずライブに当てろ」

OK…、ディープ・パープル丁度聴きたかったぜセンキュゥ…と覇気のない声でひざしが答える。ブラドも耳鳴りのする耳をおさえ、座席に仰け反っていた顔をのろのろと起こして尋ねた。

「…しかしどうするつもりなんだ」
「放っときゃいい。まだ疑惑に過ぎない。確証がなけりゃそのうち飽きられて消える話だ」

消太の言葉に、私もそれがいいと思う、とオールマイトが賛同した。

 

 

地元で最も大きいテレビ局の駐車場に8人が乗ったバンが到着する。消太たちのライブの様子を午前のワイドショーで紹介するので、別途インタビューもしたいとのオファーだった。
背景が真っ白の部屋に通され、人数分用意された椅子に座るよう促される。
インタビューは順調だった。番組のエンタメ担当らしい女性タレントが今回のライブにかける思いや新曲に関するエピソードを尋ねた。主にひざしが喋り、消太や他のメンバーにも話を振る。自分たちに割かれる尺はさほど長くないのだろう、質問は表層をなぞるだけの定番のものばかりだ。と、消太は途中まで思っていた。

「ところでマイクさんと消太さんは公私にわたって仲がお宜しいそうですね?」

カメラの前で、ひざしの眉が微かに寄った。消太はちらとその横顔を見たが、メディア慣れしている男はすぐに女性タレントに向けて気の抜けた笑顔を返した。

「付き合い長いッスからねー。高校から一緒なんでもう15年です。オレがバンドに誘って消太がOKして…ここまでくるともう人生のバディって感じ、だよな?」
「ただの腐れ縁だろ」

彼女は目の前のやりとりにうふふ、と笑ってさらに質問を重ねた。

「お2人で一緒に住んでらっしゃるとか?」
「…仲いいッスからね。しょっちゅうメシは一緒に食ってます。オレは料理嫌いじゃないし、コイツ放っとくと栄養ゼリーしか食わないんで」

ハハと笑ったひざしは、お姉さんは料理します?と逆に質問し、面倒な追及を打ち切った。

 

 

 

 

 

「…どうした?消太」

ホテルの自室で消太が窓の外を見ていると、ライブ会場から遅れて帰ってきたひざしが尋ねた。ドアを閉めて消太の後ろまでくると、その背にかけられたタオルを取ってシャワーを浴びて放っておかれたままの髪を本人に代わりわしゃわしゃと拭く。

「…庭の植木のところにマスコミがいる、2人」
「ハアン?」

ひざしが手を止めないまま消太の指す方をみると、綺麗に整えられたホテルの庭の植え込みに確かに人影が見えた。

「マスコミか?あれ。よく分かるな」
「さっきレンズが光った。TRASHの記者じゃないか?」

ここは5階なのであの位置から部屋の中まで見ることはできないだろうが、何か動きがないか、撮れるものがないかと狙っているのだろう。

「不法侵入だな…ブッ飛ばしちまうか?」
「落ち着け、そりゃ俺らの仕事じゃねぇだろ。フロントに電話してホテルの人に追い出してもらえばいい」

Hmm、確かに、とひざしは頷いて消太の頭から手を離す。ベッド横の内線電話へ向かうのだろう、と思ったが、タオルを消太に渡したその手は窓を開いた。夏の生ぬるい夜風が、消太の頬を撫でる。

ひざしは男2人を見下ろし、ハロー、と手を上げた。何か質問に答えると思ったのだろう、彼らはそろって部屋の下に近づいてくる。ひざしはにっこりと笑顔を浮かべると、フレンドリーに上げていた手のひらを握り中指を突き立てた。

「Fuck off」

出ていけ、そう吐き捨てて窓から頭を引いた。記者のささやかな仕返しなのか、パシャ、と下からフラッシュが光る。

「挑発すんな、撮られたぞ」
「いーじゃん別に…オレが中指立ててる写真なんてなんの資料価値もないだろ。それとも奴らのお望み通り立ちバックでハローする?」
「バカ」

消太は一言で返すと、自分も窓から顔を出し、2人に声をかけた。

「うちのギターが失礼した。日本人のくせにロクに日本語が使えやしねぇ。さっきのあいつの言葉を和訳すると、”人の私生活をメシの種にする前に自分達の蛮行を見直して失せろ、クソが”、だ」

消太はそう言うと、窓を閉め、カーテンを引いた。ひざしが愉快そうに笑う。

「ハッ…オレそこまで言ってないぜ?」
「あ?同じようなもんだろ」
「Cool…消太のそういうとこ好き」

ひざしが微笑んだ唇で黒髪に口付ける。
消太は静かに向き合った碧色の瞳に、疲労の色を感じた。ライブが終わったのち、ひざしはオールマイトと2人で残って話をしていたようだ。恐らく、ゴシップの影響とこれから想定されることについて。先日ひざしが初めて決まりそうだと話していたCMも関係があるのだろうか。

「…風呂、入って来い」
「ん」

消太の言葉にひざしは頷き、最後に軽く触れるだけのキスをすると浴室に向かった。
ひざしがオールマイトと話し合ったことについて消太に話さないのは、対外的なバンドの方向性を決める責任は自分が負っていると思っているからだろう。一緒にゴシップに晒された恋人に無用な心配をかけたくない優しさも、おそらくはある。

(気にすることねぇのに…)

ライブ後に肌を合わせない夜は久しぶりだった。
消太がベッドで目を閉じていると、ひざしが静かに中に潜り込み、腕を回してくる。いつもと同じムスクとバニラの甘さに包まれた。
微かな不穏さに囲まれた見知らぬ地のベッドでも、馴染んだ香りとお互いの匂いに少し心の緊張がほどけていく。やっと寝息を立て始めたひざしもそれは同じだろう。