表紙はリカさんに描いて頂きました!
”可愛い”ネコ役の男
「『高身長でチャラチャラした見た目の男優』って他に山田くんしかいないのよ」
親しいAV制作会社の人間にそうせがまれ、オレは仕方なく普段の三倍のギャラで承諾して電話を切った。普段俺が仕事を受けるのはその会社の男女モノのノーマルAV制作チームからだが、今日はゲイビ制作チームで男優が年の瀬らしく流行のインフルエンザでブッ倒れたらしい。
「ゲイビか~…勃つかな…」
ケツに突っ込むってことだよな?変なオッサンだったらどうしよ…。
ギャラにつられて引き受けたはいいが、心がズゥンと重い。副業とは言え俺も一応プロのAV男優だから相手がどんなブスでも勃たせることは出来るが、男相手となれば話はまた別だ。思わず深い溜息が漏れる。
今日は本業が休みだし淹れ立てのコーヒーを手にのどかな日曜を満喫しようと思っていた俺は仕方なく着替え、12月中旬の寒空へ出た。
(ま、男でもネコ役なら少しは可愛いやつが来るのかも…)
なんて思いながら。
◇ ◇
「相澤です。よろしく」
だから俺は無精髭の生えたダルそうな中年男が目の前に現れた瞬間、ゲェと声を挙げかけた。よろしく、という割に一切の笑顔も愛想もない奴は、挨拶をしたのでもうすべき会話は全て済ませたといった顔でロケ車のハイエースに乗り込んできた。
「や、山田です…ヨロシクー」
大分遅れて自分の名字を名乗った俺に、隣に座った奴は『了解した』と言うみたいに事務的に小さく会釈して正面に目を向けた。アゲイン、俺と特にお喋りをする気は無いという態度だ。
しかも今日のタイトルは痴漢モノ。俺は痴漢向きの見た目じゃないので初体験だし、相手がこいつだから不安しかない。…マジで勃つんだろうか?
隣を見れば奴は腕を組んで背を丸め目を閉じていた。集合場所だったAV制作会社前から目的の電車が走ってる郊外まではこのまま二時間ロケ車に揺られなきゃいけない。
「俺痴漢モノはじめてだわ。相澤…さんは長いの?」
くん付けかさん付けか迷ったがとりあえず無難な方で。このままじゃ俺が勃たなくて撮影できないことも十分あり得るんで、少し打ち解けようと思って話しかけた。年齢は俺よりチョイ上か?よく見ると童顔だけど髭生やしてるから歳が読みづらいんだよな…、なんて思いながら答えを待っているが沈黙しか返ってこない。
「…ハロー?」
覗き込むが、目を閉じた横顔はぴくりとも動かない。ミョーに規則正しい鼻息。は…?目閉じて2秒くらいで寝たってこと?
「のび太くんかよ…」
俺の呟きは誰にも拾われぬまま、二時間車内に揺られた。
郊外を走る単線電車の始発駅。ロケ車が到着した途端、車内の雑談や音楽にぴくりとも反応せず眠っていた相澤が目を開いた。
車中スタッフから聞いた話じゃ相澤は俺と同じ歳、だけど俺の倍はこの業界にいるらしい。俺と同じで平日は別の仕事をやってるようだがあまり自分のことをペラペラ喋る奴じゃないので何をやっているかはスタッフも知らねーって話だった。…そりゃ俺も平日は幼稚園児とママ達相手に笑顔で素敵な保父さんやってますとはオープンに出来ないけど。
男二人が衣装に着替えて順番にスタッフに顔や髪を整えてもらうにはハイエースはちょっと狭いが、最近の野外ロケはこれが普通だからしょうがない。わざわざ準備の為だけにホテルの一室借りるほどAV業界に余裕はない。
俺は渡されたいかにもヤンキーっぽい服に着替えて、相澤はスーツに。まだ少し眠そうな目で髪を整えて貰っている相澤の横顔を見ていると、案外造りが悪くないことが分かる。ワックスで前髪が少し後ろに流されたせいで額がさらされる。眉の形は結構いいんだな、こいつ。横からみると睫毛も長い。素材は悪くないのになんで汚らしい髭生やしてんだ?
けど、ゲイビの世界じゃその方がウケがいいのかもしれねー…俺も髭生やしてるけど、まかり間違っても今回の一回だけの撮影でソッチのファンなんか出来ませんように。
「彼と少し二人にしてもらってもいいですか。十分で行きますので」
身なりを整えた相澤の発した言葉に俺は耳を疑った。
(え?二人?なんで?すぐ撮影すんじゃねーの?)
監督やクルーは頷き、彼らも現地集合のエキストラと打ち合わせをする必要があるのでさっさと車を降りていった。
「…何?」
初めてじっと俺を見た両目は何でかちょっと充血している。
「あんたゲイビ初めてだって聞いた。勃たないだろ」
図星を突かれて俺が言葉を失った一瞬、もっと心臓飛び出そうなことが起こった。相澤が俺のジーンズを素早く寛げると、そこに顔を落とした。つまり、萎えたまんまの俺のチンコに。
「ちょ、ォワッ」
ビビるわ。初対面の男にいきなりフェラされるなんて。いや、ゲイビ撮影前だけど、心の準備ができてねーから!!さっきのこいつの言葉が本当ならその心の準備させてやろうってことなんだろうけど、準備どころか心停止するってーの!!
「うわ、待っ…ちょ………ン…、…」
ところがこれが死ぬほど巧かった。俺も撮影で女優に奉仕してもらったことは数え切れないほどあるが、全然違う。的確で、吸う力が強くて、しかもスゲー喉の奥まで咥え込んでくれる。亀頭を喉奥で搾られる刺激と、根元まで銜え込まれる深い快感。微かに苦しそうな鼻息を漏らすのに上下する頭は止めずにディープスロートしてくれる。ぢゅる…と先走りを吸い上げる音と溜飲の音。ペニスの芯が熱く猛って堪らねえ…じわじわと先走りが止めどなく染み出ている感覚がある。こんな髭の小汚い男に勃起するわけねーと思ってた二時間前の俺よ、息子サンは今では立派に成長しましたヨ…。あまりの気持ち良さに思考が天国にイきかけると、今度は喉から引き抜かれ舌が幹に絡まる。カリ首から亀頭を舐める舌使いもいい、凄くやらしい…さっきまでとは打って変わって丁寧で繊細な愛撫にこれはこれで堪らなくなる。やばい、そろそろイきそう…。
「……勃ったな」
唐突にペニスが外気に触れるひやりとした感覚。先ほどまでのねっとりした愛撫が嘘みたいに相澤はあっさり俺のペニスを口から引き抜くと、顔を上げた。
「え?もう終わり?」
「いけるだろ、それなら。ケツは慣らしてある」
相澤はそう言って少し乱れた前髪を指で払うと、俺に背を向けてバンを降りて行っちまった。………マジかよ、と取り残された俺は暫く固まった。いや、撮影できるかも分からねー状態だったからありがたいんだけどサ。
前屈みになりながら相澤を追いかけ駅のホームへ上ると、郊外の寂しい駅には似合わない人波。痴漢モノ撮影サポートのプロ集団『まさぐり社』…俺も噂では聞いてたが自分が世話になるのは始めてだ。朝のラッシュ時の設定なので相澤と同じようにサラリーマンっぽい格好をした男やOL、学生--よく見ると顔はフケているが一応学生服を着こなしている--ざっと五十人のエキストラがそこにいた。
「じゃ撮影位置についてください」
ホームに滑り込んできた電車の中央車両で監督の示す立ち位置に相澤と俺二人で立ち、それからプロ集団のエキストラがどっと車内に入り込んでくる。他はガラガラなのにこの車両だけあっという間に満員電車だ。車両を正規に借り切る予算がないので当然無断撮影。あまりグズグズすると車掌や駅の職員が不審に思って見回りに来るので、誰も彼も動きに迷いが無く素早い。さすがプロだ。
台本によると俺はサラリーマンをからかって襲うバイのヤンキーで、相澤はIT企業の若課長という設定。
「ガラス窓に張り付いて苦悶の表情を浮かべているシーンをねっとり撮ってから挿入です。挿入の瞬間は長めで」
「分かりました」
「相澤さんはいつも通りで」
「はい」
相澤は素のままでいい、ってことなんだろう。確かにあんまり演技が出来るタイプに見えねーし。監督が短いカウントを刻み、撮影が始まる。
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