運命論者たち(アガレスとニスロク)

mgd非CP

 

 

やわらかな新芽と花の香りが混ざった春の風と共に、アガレスはアジトに戻ったところだった。ちょうど入口でソロモンと遭遇し、つやつやとした頬で明るく微笑まれる。

「アガレス、ニスロクが来てるよ」
「む、そうか」

ソロモンに礼を言い、アガレスは台所へ向かう。彼がいるはずの場所はそこしかないのだ、足には迷いがない。手の中では先ほど集めた野草が綿毛のようにふわりと揺れている。散歩の途中で以前ニスロクに教えてもらった「ウマいもの」を見つけたので、アミーに料理してもらおうと摘んできたのだった。
厨房では見慣れた華美な後姿の男が三つ編みを揺らし、包丁を握る太い腕を忙しなく動かしていた。邪魔にならぬようそっと中に入ったつもりだが、彼は耳聡く振り向く。料理に没頭しているようにみえて、誰かがくれば手伝わせようとの意識があったのだろう。
「! アガレス」
釣りあがった凛々しい眉の下、琥珀色の目がこちらにじっと照準を合わせる。料理のみに興味と情熱を一心に注ぐ彼は、生真面目な表情筋をくずし人に甘く柔らかな表情を返すことは滅多にない。だが、声には馴染みの者に向ける温かさが確かにあった。その耳慣れた低音に、アガレスも微笑みを誘われる。
「何を持っている?…ほう、野草か」
「ああ、先ほど見つけたのだ。オマエが教えてくれた野草があったのでな」
「丁度いい。昼食用に新鮮な旬を感じさせる一品が欲しいと思っていたところだ」
褐色の両掌いっぱいの、まばゆいほどに明るい新緑の若葉を見るニスロクの目はきらきらと光っていた。何よりも新鮮な食材を見た時の彼は一番表情が豊かになる。アガレスの胸の内がほっと温かくなった。アジト全員分の昼食にするならば足りないだろう、追加で摘んでこよう、と提案すると、ニスロクは「何とかする」「それより貴様は手伝え」と言うのでアガレスは大人しく彼の隣で台所に立った。以前のアガレスにとっては山の一部、植物のうちの一種に過ぎなかった淡色の葉々が彼の手の中で「食材」に変わっていく鮮やかな様に見とれ、見とれていると「手が止まっている」と怒られた。

「…手伝おうと思ったけど必要なさそうね」
台所の入口で足を止めたアミーに、ソロモンは「そうだな…」と答える。その口元は緩んでいた。
「何笑ってるの?」
「いや…二人が会えてよかったなって」
「え?」
ニスロクとアガレスが会うのはソロモンが知る限りしばらくぶりだ。最近ニスロクがアジトに来訪した時は珍しくアガレスが不在の時に当たることが多く、そのたびに「…アガレスはいないのか」と尋ねられていた。アジトではニスロクともアガレスともよく会話するアミーは、ソロモンの言わんとすることを察したらしい。
「気まぐれで来るから会えないのよ。ちゃんと何日何時に、って約束すればいいのに」
「そうだね」
でもそういう二人じゃないんだろうな…、と思いながら、ソロモンはこの場を離れるためにそろりと身を翻した。

 

 

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